我が子の不登校、漫画家・青木光恵さんはどのように乗り越えた?

漫画家・青木光恵さんは、娘のちゅんこさんが中学2年でいじめを受けて不登校となってから大学に進学するまでの経験をコミックエッセイ2冊に渡って描いています。今回、青木さんとちゅんこさんにインタビューを行い、不登校だった当時についてお話を伺いました。

 

エッセイ漫画家・青木光恵さんと娘のちゅんこさんインタビュー(前編)

【プロフィール】

青木光恵さん
1969年生まれ、兵庫県尼崎市出身。1988年頃に漫画家としてデビュー。「中学なんていらない。」(KADOKAWA メディアファクトリー)、「不登校の17歳。」(KADOKAWA)の2冊に渡り、中学2年でいじめに遭い、不登校になってしまった娘の様子、その後の進路についてなど、波乱万丈な子育ての日々をコミックエッセイとして発表。

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娘・ちゅんこさん
1997年生まれ。いじめが原因で中学2年で完全不登校に。体調不良、不登校で内申点がもらえず成績がオール1、という逆境を乗り越えてなんとか第一志望の公立高校に進学してめでたく卒業。2016年4月より大学に進学し、現在は女子大生としての生活を満喫中。

【漫画】

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中学なんていらない。 不登校の娘が高校に合格するまで」 KADOKAWA/メディアファクトリー (2014/11/21)

中2の夏、いじめが原因で完全不登校になってしまった作者の娘・ちゅんこ。体調不良、成績はオール1、といった数々の逆境の中、家族はそれぞれが葛藤しながらも娘の明るい将来のために一致団結。中学校に通わず、塾の助けを借りて志望する高校を受験、合格するまでの日々を描く。

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不登校の17歳。 出席日数ギリギリ日記」KADOKAWA (2017/3/2)

中学時代の不登校を乗り越え、なんとか第一志望の公立高校への合格を果たした作者の娘・ちゅんこ。しかし高校の荒れた雰囲気に馴染めない上、またしてもいじめ問題が勃発し、再び不登校の危機が訪れる……!思春期真っ只中の娘の成長ぶり、進学するための学費問題、大学入試についてなどを描いた青木光恵の「不登校」コミックエッセイシリーズ第2弾。

 

実際に不登校になるとどんな問題があるの?青木家のケースを漫画に収録

「通信制高校ガイド」では、漫画家・青木光恵さんと娘のちゅんこさんに行なったインタビューの模様を前編・後編の2回に分けてお送りします。

前編となる第1回目は、中学2年でちゅんこさんが受けたいじめ、塾との出会い、青木さんの母親としての本音などについてお話を伺いました。

 

――まずは、娘さんの不登校を漫画化するに至ったきっかけ、経緯などを教えていただけますか?

青木さん:以前から付き合いのある編集さんに「娘が学校行ってないんですよ」という話をしたら、「落ち着いた頃でもいいので、その話を漫画に描きませんか?」と言われたのがそもそものきっかけですね。

 

――我が子の不登校を漫画で公表することについて抵抗はありませんでしたか?

青木さん:基本的に私の中で、エッセイ漫画のネタとして「コレはイヤだ」というものはありませんでした。娘はイヤだったかもしれないですけど……(笑)。

ちゅんこさん:昔から漫画にされていたので慣れてましたね。「イヤだ」と言っても「それで食べてるんだから!」と言われていたので、「そうなんだ」と受け入れてました。

青木さん:漫画家を親に持った被害者です(笑)。

 

――もう気にしていないという感じですね(笑)。1冊目の単行本「中学なんていらない。」を出版して周りの反応などはいかがでしたか?

青木さん:意外と本人たちはケロッとしていて、こちらも描く時には恨み節にならないよう気をつけていたんですが、いじめを行なっていた男子生徒や学校に対してこちらの想定以上に怒りを感じた人もいたりと、本当にさまざまな反応をいただきました。いじめや不登校の問題というのは、経験や育った環境などによって感想や感情に個人差があって、読んだ方それぞれの琴線に触れるところがあるんだなあ、と思いました。

 

――2作目の「不登校の17歳。」は、高校に進学してから大学に入学するまでを描いた前作の続編という内容ですね。

青木さん:こちらは編集さんに随分前から「続きを」と言われていたものの、高校に入学してきちんと通えるかわからないので「せめて卒業してから」と最初は描くのを断っていたんです。漫画としてオチもつけられないし。でも、高校卒業の目処が立って大学に進学するにあたり、うちと同じように学費など金銭面で悩んでいる人が多いかもと思ったので、描かせていただきました。

 

――漫画は全体的に青木さんの母親目線で描かれてますが、ちゅんこさんは不登校だった当時はどのような心境でしたか?

ちゅんこさん:あんまり覚えてないんですよ。ずっと家で漫画を読んだり、アニメを見て過ごしていたんですが……。

 

――漫画では体調不良が多くてよく寝ていたと描かれてますが、大学生になった今、体調のほうはいかがですか?

ちゅんこさん:以前よりは頭痛も減ったし、体調はそこまでひどくはないです。

青木さん:中学時代は、とにかくずっと寝ていた印象ですね。夜型生活や昼夜逆転になっていたわけでもなく、普通に夜に寝て翌日の夕方3~4時頃まで起きませんでした。高校時代は起きている時間が少し長くなって、大学生になった今は朝きちんと起きて午前中から活動できています。

 

突然娘が学校に行けなくなった……。青木さんの母親としての本音や対応は?

 

――漫画にはいじめの内容や不登校に至るまでの詳しい経緯が描かれていますが、ちゅんこさんが学校を休み始めた頃、青木さんはどういう心境だったのでしょうか?

青木さん:そもそもうちの子は、「自由でマイペースな子」だったんですね。でも学校の先生やお医者さんから「愛情不足」だの「甘やかしすぎ」だのいろいろ言われて小学6年生で発達障害の検査を受けたりもしました。

でも私も子どもの頃はこんな感じだったので、私の中では個性の範疇でした。ただ不登校となるとやっぱり親は不安だし、それ以上に子どもも不安だろうし。でも無理やり通わせてもしょうがない……とどうしようもできず、その辺は大変でしたね。最初は「行け」ってすごく言ったし、話し合いもたくさんしました。

 

――いじめの主な内容は特定の男子生徒から暴言を吐かれ続けるというものだったそうですが、暴言というのはどのような内容だったんですか?

ちゅんこさん:その男子生徒はネットで得たネガティブな情報を披露するのが得意で、私の好きな音楽などをディスるとか……そういうのでしたね。

 

――見当違いな質問かもしれないですが、その男子生徒が本当にちゅんこさんに好意を持っていたということはないんでしょうか?

青木さん:私も最初はそう思いました。他の人に話してもほとんど「それ、好きなんじゃない?」って言われたんですけど、実際にその男子生徒に会ったらそういう感じではなかったです。担任の先生いわく「目の敵にしてる」と。だから彼女だけがターゲットにされていたようで。

 

――中1の夏に東京の世田谷から神奈川県の葉山に転校されてるんですよね。そういった暴言などは、転校直後からあったんでしょうか?

ちゅんこさん:中2でその男子と同じクラスになってからです。ただ、私が世田谷からの引っ越しがイヤで、転校してからも前に住んでいたところの話ばかりしていたので、今考えてみれば、みんなから「なんなの?」と思われていて浮いていたのかもしれないし、ずっと新しい中学校に馴染めてなかったんじゃないかと思います。

青木さん:世田谷と葉山では、かなり雰囲気が違ってたんですね。葉山は良くも悪くも地域密着型のすごくフレンドリーな雰囲気で、のびのびしていました。世田谷はいろいろな地域から来て住んでいる人が多いので、当たり障りがないというか、ノリが全然違いますね。世田谷で生まれ育ったちゅんこにとっては、ギャップがけっこうあったと思います。

ただ、小学生の時は特別に朝が弱かったわけでもないのに、世田谷時代も中学校に入学した頃から朝起きられない、という兆候はありました。

 

――世田谷時代に通っていた中学校で何かあったりしたんですか?

ちゅんこさん:小学校からずっと一緒だった子は私が変わった言動をしても慣れているから何も言わないけど、他の小学校出身の男子からは「おまえおかしいよ」って言われたり……。そういうのがイヤだなと思うことはありました。

青木さん:今振り返ると、うちの子は説明が下手で自分の気持ちをうまく相手に伝えられない、ということが多くて、それでストレスを抱えていたのかもしれないと思うんです。話下手な子は、「うまく伝えられないこと」自体がストレスだし、ちょっと気の強いタイプの子が相手だと衝突したり誤解が生じたり。体調不良や朝起きられない原因のひとつには、そういった毎日抱える小さなストレスの積み重ねなどもあったんじゃないかな、とは思います。

 

――中学で不登校になってから紆余曲折を経てお母さんに「学校に行かなくてもいいよ」と言われた時、漫画では「娘の顔が明るくなった」と表現されていましたが、実際にちゅんこさんの気持ちはどうでしたか?

ちゅんこさん:なんかあんまり覚えてなくて……。

青木さん:私も漫画を描く時に一応「こういうことあったよね?」と本人に確認するんですけど、中・高時代は何を聞いてもびっくりするくらい覚えてないんですよ。

 

――当時、夢中になってたもの、アニメや漫画などは覚えてますか?

ちゅんこさん:中2で不登校になった頃は「プリキュア」シリーズにすごくハマって、ずっと毎日TVで見てました。

 

――当時はストレスが大きすぎて、好きなこと以外はシャットアウトしてたという状態なのかもしれないですね……。

青木さん:私も今だにやっぱり「あのいじめがなければ……」とは思いますしね。夫は今もすごく怒ってますし。進路などの選択肢も「中学校にもっと通えてたら、他の選択肢があったのかな」「私立のおっとりした高校、女子高だったらもっと通えてたかも」と何度も思ったりします。だからあまりにも大きな代償ですよね。

 

葛藤する日々の中に差し込んだ希望の光、転機となった塾との出会い

 

――青木家にとって大きな転機となったのが塾との出会いだと思いますが、塾に通うことになったきっかけを教えてください。

青木さん:まず義務教育である中学校の授業を受けられないと、基礎学力、一般的な教養がごっそり抜けてしまうのでは、という点で私の中で焦りがありました。不登校になって中3の夏休み頃に「高校受験をどうする?」となってから、塾を探し始めたんですね。

 

――通われた塾を選んだ理由などはありますか?

青木さん:漫画にも描いたんですけど、夫が片っ端から電話で問い合わせをした中で、この塾が一番感じが良くて自由度も高かった。しかも不登校の子が通っていたこともあるということで話を聞きにいったんです。中でも授業の振り替えができるのと、授業の90分前までに連絡すればキャンセルできる、というのが大きな決め手でしたね。体調不良で欠席しても他の日に変更できるのは、本人にとってプレッシャーにならないし、気分や体調が悪い時に無理やり通うよりはいいかなと思ったんですよね。過去には家庭教師をお願いしたこともあったんですけど、体調不良が続いてお断りするばかりになってしまって……。いい先生だったんですけど。

 

――その塾では先生がかなり親身に接してくれてますよね。

青木さん:入る前にいろいろと話を聞いてくれましたし、受験の時などもかなり相談に乗ってもらいました。私たちも入る前は「無理かもな」と、そんなに期待はしてなかったんですよ。でも本当にたまたま雰囲気が合ったので良かったです。

 

――塾ではどんな風に勉強していたんですか?

ちゅんこさん:基本の5教科を教科書に沿って進めていました。先生が大勢の生徒の前で講義をするという形式ではなくて、担当教科の先生一人に生徒二人が左右に座って、それぞれが課題を進めていく、というシステムを取っていたので、先生や同じ授業を取っている他の子と話したり、和気藹々な雰囲気でした。

 

――その塾に通えたのは、やはり雰囲気が合ったのとプレッシャーがなくなったのが大きかったのでしょうか?

ちゅんこさん:そうですね。塾での勉強も楽しかったかな。週2、3日ペースで授業を取っていて、高校受験の前は毎日通って自習室で勉強してました。結局、中3の夏休み頃から大学が決まる高校3年の夏休みまで丸々3年通いました。大学受験の作文や面接の練習も塾で見てもらってましたね。
あとは塾が駅前だったので行きたいお店に寄れたり、外出で気分転換もできました。

青木さん:自転車で15分ほどの距離だったので、通えたのは近いのも大きいですね。
まぁ、「勉強しよう」という気持ちはずっとあったようなのでそこが救いだったかな。逆勉強が嫌いだったら、無理やり塾に通わせても前進していることにならないですし、時間もお金も無駄ですよね。

 

通えるなら行ったほうがいい!やっぱり「中学は必要」。

 

――確かにちゅんこさんの場合、ずっと「勉強が嫌い」とは言っていないですよね。では、中・高時代で学校に行けなかった時にご両親のどういう対応が嬉しかったですか?

ちゅんこさん:厳しく「学校行かなきゃ絶対ダメ!」ということを言わなかったこと……かな。

青木さん:もちろんこちらとしては学校に行ってもらいたかったですけどね。私は「根性で行け!」「いじめられたらいじめ返せ」くらいに思っていたので、当時は私の中で何度も気持ちが揺れて葛藤していました。「行きなさいよ!」「イヤだ」とモメて「しょうがないか……」といったん落ち着くものの、やはりこちらも感情を消化できなくて、また「行け!!」「イヤ!!」、そういうやり取りを何度も繰り返しましたね。

 

――親のほうも気持ちが整理つかないですし、なかなか切り替えられないですよね。

青木さん:そりゃそうですよ。学校に行ってくれたほうが絶対安心ですもん(笑)

ちゅんこさん:あんまり覚えてないけどね(笑)。

青木さん:そこで「優しくしてあげて」と周りが言うのは簡単なんです。でも、「実際にじゃあどうするの?」「これから勉強もせずに仕事はどうするの?」「私たちが死んだ後にこの子はどうなるの?」ってなるのが普通だと思うんですよね。
だから、簡単に「じゃあ行かなくていいよ」とはなかなか言えない。やっぱり相当な葛藤があって言える言葉ですよね。正直、あきらめたから出てきた言葉です(笑)。このまま「行け!!」「イヤ!!」を繰り返しても楽しくない。それで少しでも気持が楽になって体調がマシになるんだったらってそのほうがいいし、人生が楽しいのが一番、多くを求めても仕方ないという心境に達しました。

 

――そこはやはりちゅんこさんを尊重されてますよね。

青木さん:たまたまじゃないですかね……。特に私が自由業で「人と違う」ということに対して許容が広いので「いいよいいよ」という気持ちになれたんですけど、もっと堅い会社勤めをしていたら「キィーッ」となっていたかもしれません。
1冊目のタイトルは「中学なんていらない。」ですけど、「中学は必要」だと思いますし、ちゃんと通えるんだったら絶対に行って勉強したほうがいいと思います。ただ中学校に行かなくてもなんとかなった方法を探して見つけたというだけです。

 

 

――インタビュー後編へと続きます。

 

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