特別支援学級と特別支援学校の違いとは?発達に合わせた学校の選び方
発達障害の子どもが楽しく快適な学校生活を送るためにも、どのような学習環境に身を置くかということはとても重要です。ここでは、発達障害のある子どもの就学先として考えられる、特別支援学校と特別支援学級の特徴や違いについて紹介していきます。
目次
特別支援学校と特別支援学級の違いとは?
特別支援学校と特別支援学級、どちらに進学するべきか。これは、発達障害をもつ子ども本人、そして保護者にとっても、その後の人生を左右する大きな選択ですよね。よりよい判断をするためにも、まずはその違いについてきちんと理解しておきましょう。
■特別支援学校とは
特別支援学校とは、心身に障害を持っていたり、大きな病気を患う児童生徒が通う学校のことです。幼稚部、小学部、中学部、高等部があり、それぞれに準じた教育を受けながら、生活上の自立を図るための知識や能力を身につけることを目的としています。
■特別支援学級とは
障害のある児童生徒のために、通常の小学校や中学校内に置かれる学級のことです。通常学級での学習指導が難しい児童生徒を対象に、少人数制のクラスで授業を行い、一人一人に合わせた適切な学習を行うことを目的としています。
高等学校の場合は、学習指導要領に特別支援学級についての具体的な記述がないことなどから、特別支援学級を設置している学校はほとんどありません。
特別支援学校が生活上の自立を図ることを目的としているのに対し、特別支援学級は個々に合わせた学習教育を行うことを目指しています。この点が、二つの最も大きな違いと言えるでしょう。
どちらに通うかを判断する明確な基準はあるの?
発達障害の症状や程度は人によってさまざまですから、「この障害だからこっちの学校へ」といったような、はっきりとした線引きをすることは不可能です。
そこで一般的な判断基準となってくるのが、排泄や食事、着替え、意思伝達など、日常生活に欠かせない行動を、子どもが一人、または補助を伴って行えるかどうかということ。
→上記のことが困難な場合は特別支援学校へ
→上記のことは問題なくこなせるけれど、学力に遅れがある場合は特別支援学級へ
というケースが多いようです。
また、バリアフリーや特別な医療器具が必要であるなどの物理的な問題により、特別支援学級では対応が難しいというケースもあります。
法令では、特別支援学校に入学する発達障害の程度について「学校教育法施行令第22条の3」に以下のように示されています。
1 知的発達の遅滞があり、他人との意思疎通が困難で日常生活を営むのに頻繁に援助を必要とする程度のもの
2 知的発達の遅滞の程度が前号に掲げる程度に達しないもののうち、社会生活への適応が著しく困難なもの
また、特別支援学級に入学する障害の程度については、「障害のある児童生徒等に対す る早期からの一貫した支援について」(平成25年10月4日付け25文科初第756号文部科学省 初等中等教育局長通知)で以下のように示されています。
<知的障害者>
知的発達の遅滞があり、他人との意思疎通に軽度の困難があり日常生活を営むのに一部援助が必要で、社会生活への適応が困難である程度のもの
<自閉症・情緒障害者>
1 自閉症又はそれに類するもので、他人との意思疎通及び対人関係の形成が困難である程度のもの
2 主として心理的な要因による選択性かん黙等があるもので、社会生活への適応が困難である程度のもの
(注)学校教育法施行令22条の3の表「知的障害者」の項に達しない程度の知的障害を併せ有する場合は、障害の状態に応じて、知的障害者を対象とする特別支援学級における教育について検討することが必要である。
これはあくまでも障害の程度を示したもので、絶対的な基準ではありません。どちらに通うかは、最終的には本人や親の気持ちが最も重視されます。
特別支援学級と特別支援学校、それぞれのメリット・デメリット
では、それぞれが持つメリット・デメリットについて、具体的に見ていきましょう。
■特別支援学校
【メリット】
- 専門知識をもった職員がそろっている
- 施設設備や教育器具など、障害に合わせた学習環境が整っている
- 個々の障害に合わせてきめ細かな対応をしてもらえる
特別支援学校の教員は、教員免許の他に「特別支援学校教員免許」が必要となるため、発達障害についての豊富な知識をもっています。専門的な知識やノウハウを身につけた教員に指導してもらえるのは心強いですよね。
また、バスでの送り迎えや施設のバリアフリー化など、障害をもつ児童生徒に適した学習環境が整っているのも大きなポイント。看護師や専門の療法士が常駐している学校もあり、一人一人の障害の程度や種類に応じた教育や訓練を受けられます。
【デメリット】
- 通常学級の子どもや、同年代の子どもとの交流が少ない
- 学力向上を目指す授業が少ない
デメリットとして真っ先に挙げられるのが、同年代の子どもとの交流が少ないこと。1クラスの児童生徒数は6名程度。クラス替えもないため、交友関係が狭くなってしまいがちです。通常学校に通う子どもたちとの関わりも、特別支援学級に比べると大幅に少なくなってしまいます。
また、特別支援学校は生活上の自立を目的としているため、授業内容も「文字の読み書き」や「お金の計算」など、実用的な内容が多め。学力向上を目指した授業はあまり行われません(学校や子どもの障害の程度により異なります)。
■特別支援学級
【メリット】
- 通常学級の子どもたちと接する機会が多い
- 教科によっては通常学級で授業が受けられる
- 個々の発達に応じたカリキュラムで苦手教科の学力を伸ばすことができる
特別支援学級の最大の利点は、通常学級に通う子どもたちと交流できること。給食の時間や休み時間に一緒に遊んだり、教科によっては通常のクラスで授業を受けることも可能です。多くの同年代の子どもたちとの触れ合いを通して、さまざまな刺激を得ることができます。
また、個別のカリキュラムを通じて、苦手な科目や教科に取り組むことができるのもメリットです。
【デメリット】
- 教員が専門知識に乏しいケースも
- 障害児や障害者福祉に関する情報が入りにくい
- 通常学級の子どもと比較されてしまうことがある
特別支援学級の教員は、「特別支援学校教員免許」を有する必要がないため、必ずしも専門知識のある先生が担任になってくれるとは限りません。
また、放課後等デイサービスなどの施設情報や、障害者向けの進路情報などが入ってきづらく、保護者が役場などに出向いて調べなくてはならないことも。関連施設から容易に情報が入手できる特別支援学校とは大きく違います。
さらに、通常学級に通う大多数の子どもたちの中に身を置くため、特別支援学級の児童生徒は“少数派”になってしまいがち。周囲から比較されたり、自分自身が他の子どもたちと自分を比べて劣等感を覚えてしまうこともあるため、大人たちのケアが重要になってきます。
入学条件と就学先が決定するまでの流れ
では実際に、どのような流れで就学先が決定するのでしょうか。
本人や親の意向が重要視されるとはいえ、必ずしも望んだ就学先に入学できるとは限りません。特別支援学級や特別支援学校へ就学するには、市町村教育委員会からの判定が必要なのです。
まずは地域の教育相談(就学相談)に参加し、専門の職員と面談を行います。その後、医師・幼稚園・保育園等からの情報や、知能検査や発達検査、就学時健康診断の結果を元に、区市町村教育委員会が審査・判定を行い、就学先を決定します。
「特別支援学校判定を受けたが特別支援学級に行きたい」など、判定に不服がある場合は、教育委員会に申し立てを行うことができますから、諦めずに問い合わせをしてみましょう。
授業料や教育経費はどのくらいかかるの?
公立学校であれば、義務教育期間中の授業料は必要ありません。経費としては、通常の学校と同じように、教材費や給食費、PTA会費などが発生します。さらに特別支援学校の場合は遠くへ通うケースもあるため、交通費がかかることも多いようです。
私立学校の場合は入学金や月々の授業料が発生しますが、金額は学校により異なります。
特別支援教育就学奨励費を活用しよう
しかし、これらの経費は家庭の経済状況に応じて国から補助を受けることができます。「特別支援教育就学奨励費」といい、国が定める障害の程度(学校教育法施行令第22条の3)に該当している児童生徒を対象とした制度です。
補助の対象となるのは、通学費、給食費、教科書費、学用品費、修学旅行費などで、多くの場合は負担した経費のすべてを就学奨励費でまかなうことができるようです。
転校や編入はできるの?
特別支援学級に進学したものの、病状や障害の程度が悪化したり、担任の先生や環境にうまく馴染めないなどの理由で、特別支援学校への転校・編入を希望する方もいます。その場合も、区市町村教育委員会による判定が必要です。
逆に、障害が軽減されたり、障害の原因である病気怪我が改善した場合は、ケースとしてはまれですが、特別支援学校から特別支援学級へ転校することも可能です。
高校進学は可能?入学条件や入試について
上でも述べましたが、現在、高等学校では特別支援学級を設置しているところはほとんどありません。ですから、高校進学を希望する場合は特別支援学校の高等部へ通うことになります。
入学を希望するには、
- 障害の程度が「学校教育法施行令第22条の3」に定められた内容に該当していること
- 義務教育課程を修了していること
が必須条件となります。
また、内容は学校によって異なりますが、面接や学力検査、適応検査などの入学試験も実施されます。入学希望者が募集定員を上回る場合は、不合格になってしまうことも。通常の高校と同じように、必ずしも希望の学校へ進学できるというわけではない、というのが実情です。
ちなみに特別支援学校の高等部を修了すると、大学の入学資格を得ることができます。
もうひとつ選択肢として挙げられるのが、通信制高校への進学です。通信制高校も、課程を修了すると大学の入学資格を得ることができます。通信制高校に入学するには、
- 中学校もしくはこれに準ずる学校を卒業していること。または、これと同等以上の学力があると認められていること
が条件となります。入学時の審査は書類選考や面接などが一般的で、学力検査は行わない学校がほとんどです。
多くの通信制高校は「単位制」であるため、留年の心配がありません。自分のペースで学校に通い、学習を進めることができます。「自学自習はちょっと不安……」という方もご安心を。通信制とはいえ、週2~5日通学しながら学べるコースを設置している学校もたくさんあります。少人数制や個別指導を取り入れているところが多く、個々に合わせた指導を受けられるのも魅力です。
どんなサポートが受けられるかは学校によって異なるため、事前リサーチは必須です。近年では、発達障害専門のサポートキャンパスを設置している学校や、専門のカウンセラーが常駐している学校など、発達障害の生徒を積極的に受け入れる通信制高校も増えていますから、まずは資料請求をして希望に合った学校を探してみましょう。
詳しくは、こちらのページでも解説しています。
まとめ
特別支援学校も特別支援学級も、それぞれに特徴があり、メリット・デメリットを抱えています。就学先を見極めるうえで一番大切なことは、発達障害をもった子どもがのびのびと学習できる環境かどうか。実際に説明を聞き、見学に行き、子どもがそこで学ぶ姿を具体的にイメージしてみることをおすすめします。
子どもの豊かな学校生活、その先の未来を見据えた学校選びをすることが大切ですね。
- 参照
- 特別支援教育:文部科学省