高卒認定試験、過去問から見る「科学と人間生活」の傾向と対策(2)
理科の選択科目のひとつである「科学と人間生活」。物理、化学、生物、地学の4分野からまんべんなく出題されるため、勉強法に悩む人も多いようです。(2)では、過去問題を解説しながら、「科学と人間生活」の中の「生物」「地学」の重要ポイントや勉強法について説明していきます。
目次
「科学と人間生活」の出題傾向と対策(大問5~8)
【3】大問5・6 生物(生命の科学)
生物分野で取り上げられるテーマは「生命の科学」です。それぞれ「光と生物」と「微生物とその利用」に関する大問の、どちらか一方を選んで解答します。
(1)光と生物
①植物と光
・光合成のしくみ
光合成のしくみについて、しっかりと理解しておきましょう。光合成とは、根から吸収した水と気候から取り入れた二酸化炭素から有機物をつくりだすはたらきのことですね。実際の問題を解きながら、ポイントを押さえましょう。

(平成28年度第一回試験問題より)
光合成が行われる葉緑体は、細胞ではなく、細胞に含まれるつくりのひとつです。よって、答えは④となります。その他の3つの選択肢は正しいことを述べていますから、しっかりと内容を押さえておきましょう。

(平成28年度第一回試験問題より)
これは、光合成速度に関する問題です。光合成による二酸化炭素の吸収と、呼吸による二酸化炭素の放出が見かけ上等しくなるときの光の強さを光補償点といいます。よって、答えは①となります。なお、光を強くすると光合成の速度も加速しますが、ある強さを超えると光合成速度は一定になります。この光の強さを光飽和点といいます。下のグラフは問題でよく用いられますから覚えておきましょう。
・植物と光の関係
植物の性質と光の関係についての問題もよく出題されています。実際の問題を解きながら、重要な語句を洗い出してみましょう。

(平成27年度第一回試験問題より)
植物が外からの刺激に対し一定の方向に屈曲する性質を屈性と言います。刺激の方向へ屈曲する場合は正の屈性、反対側へ屈曲する場合は負の屈性となります。この刺激が光である場合、正の光屈性、負の光屈性と呼ばれます。なお、走性とは、動物が外部からの刺激に対し、一定の方向に動く性質です。これらより、答えは②であるとわかります。

(平成28年度第一回試験問題より)
暗期が一定の期間より短くなった時に花芽を形成する植物を長日植物、反対に暗期が長くなった時に花芽を形成する植物を短日植物といいます。また、日長に関係なく花芽を形成する植物を中性植物といいます。短日処理とは、日光を遮ることで連続した暗期を長くすることです。これらより、答えは③であるとわかります。
②ヒトの眼と光
・眼の構造
眼の基本的な構造について、下図の部位の名称とはたらきをきちんと押さえておきましょう。

(平成28年度の問題文を加工したものです)
水晶体…光を屈折させて網膜に像を結ぶ
虹彩…カメラの絞りに相当し、光の量を調整する
硝子体…ゲル状の透明な物質で、光を網膜まで通す
網膜…視細胞が光を受容し、カメラのフィルムのような役割を果たす
視神経…映像を脳へと伝える
これらを踏まえ、実際の問題を解いてみましょう。

(平成28年度第二回試験問題より)
Aは水晶体で、Bは網膜ですから、答えは②の組み合わせとなりますね。

(平成28年度第二回試験問題より)
これは、上の問1に続く問題です。網膜全体に分布している桿体細胞は、弱い光を感じ取る細胞です。暗さやモノの形を認識し、色は識別できません。一方、錐体細胞は黄斑付近にあり、色を識別することができますが、強い光がなければ反応しません。これらをふまえると、答えは①であるとわかりますね。
・眼と光の関係
ヒトの眼は、光によってさまざまな反応をします。眼に入る光の量は、虹彩によって瞳孔の大きさを変えることで調整でき、明所では瞳孔は小さくなり、暗所では大きくなります。また、明るいところから暗い空間へ入ったときに、暗所に徐々に目が慣れることを暗順応といいます。反対に、明るい場所に目が慣れることを明順応と言います。
これらを踏まえ、実際の問題を解いてみましょう。

(平成28年度第二回試験問題より)
瞳孔は明るいところで小さくなり、暗いところで大きくなりますから、①か②のどちらかに絞られます。瞳孔の大きさは虹彩によって調整できますから、答えは②であるとわかります。なおチン小体とは、毛様体を水晶体につなぐ環状の繊維のことです。

(平成28年度第二回試験問題より)
明るい場所に目が慣れるはたらきを明順応と言いますね。よって、答えは④であるとわかります。限界暗期とは、植物の花芽形成に必要な長日植物の場合は最長の、短日植物の場合は最短の暗期の長さのことです。光走性とは、生物が光刺激に反応して移動すること。光周性とは、昼の長さと夜の長さの変化に応じて生物が示す現象のことを指します。似ている用語については、それぞれの意味をしっかりと理解しておきましょう。
(2)微生物とその利用
①微生物と発酵
微生物にはカビや細菌、ウイルスなど、さまざまな種類があります。私たちの体の中にもたくさんの微生物がいますし、生態系の中でも大きなはたらきをしています。その中でもよく出題されるのが、発酵食品についての問題です。
発酵させる微生物の種類は主に3つあります。
細菌類…納豆・ヨーグルト
カビ…甘酒・かつお節
酵母菌…ビール・ワイン
これらを踏まえ、実際の問題を解いてみましょう。

(平成27年度第一回試験問題より)
反応1は、酵母菌などが炭水化物をエタノールと二酸化炭素に分解しエネルギーを取り出す反応です。これをアルコール発酵といいます。よって、答えは③となります。アルコール発酵を利用した食品には、日本酒、パン、ビールなどがあります。

(平成27年度第一回試験問題より)
これは、上の問1に続く問題です。反応2は、炭水化物を分解して乳酸に変え、エネルギーを取り出す反応です。これを乳酸発酵といいます。よって、答えは②となります。乳酸発酵を利用した食品には、ヨーグルトやぬか漬けなどがあります。

(平成26年度第一回試験問題より)
アルコール発酵についての問題です。パンは、パン酵母(イースト菌)のアルコール発酵を利用して作られますが、パンの多数の穴は、主に二酸化炭素によるものですから、④が誤りだとわかります。
②微生物研究の歴史
微生物の研究についての歴史や人物名についての問題も多く見られます。過去問題を見ながら、重要語句を押さえましょう。

(平成28年度第二回試験問題より)
レーウェンフックは17世紀、自作の顕微鏡を用いて微生物を最初に発見した人物です。パスツールは微生物が自然発生しないことを確かめた細菌学者ですから、答えは②であるとわかります。たばこモザイク病について研究し、ウイルスの存在を示したのはイワノフスキーで、結核や炭疽菌を発見したのはコッホです。
③微生物の応用
科学の進歩により、微生物の利用方法はさらに広がっています。食料問題や資源問題、医療やバイオエネルギーなど、最先端の微生物の応用についても押さえておく必要があるでしょう。

(平成28年度第一回試験問題より)
遺伝子組み換えなどのバイオテクノロジーを利用し実用化されているのは、大腸菌や酵母菌です。よって、答えは③の大腸菌となります。
【4】大問7・8 地学(宇宙や地球の科学)
生物分野で取り上げられるテーマは「宇宙や地球の科学」です。それぞれ「身近な天体と太陽系における地球」、「身近な自然景観と自然災害」をテーマとした大問の、どちらか一方を選んで解答します。
(1)身近な天体と太陽系における地球
①太陽系の天体と構造
太陽の周りをまわる大きな天体を惑星と言いますが、惑星は
地球型惑星…表面が岩石で密度が大きく、赤道半径は小さい(水星、金星、地球、火星)
木星型惑星…表面が気体で密度が小さく、赤道半径は大きい(木星、土星、天王星、海王星)
の二つに分けられます。
これらを踏まえ、実際の問題を解いてみましょう。

(平成26年度第一回試験問題より)
木星は木星型惑星ですから、赤道半径は地球より大きく、平均密度は地球より小さくなります。よって、③が正しい組み合わせであるとわかりますね。ちなみに地球の赤道半径は約6380km、木星の赤道半径は約71500km、木星の自転周期は約10時間です。

(平成26年度第一回試験問題より)
地球や金星などの地球型惑星の中心部には金属からなる核があります。表面は岩石でおおわれていますから、答えは②となります。なお、表面を水素やヘリウムでおおわれているのは木星型惑星の特徴です。
②太陽からのエネルギー
私たちは、光や熱など、太陽からたくさんの恵みを受けて生活しています。太陽のしくみと地球との関係について、過去問題にふれながらポイントを押さえておきましょう。

(平成28年度第一回試験問題より)
太陽の中心では、水素の原子核がヘリウムの原子核へと変化する核融合反応によって莫大なエネルギーが生み出されています。よって、答えは①となりますね。核分裂反応とは、大きな原子核が小さな原子核に分かれる反応のことです。

(平成28年度第一回試験問題より)
コロナとは、太陽の周りに広がる高温のガスの層のことを指しますから、答えは④となります。なお、周囲より温度が低く、黒く見える部分を黒点といい、黒点の数が多いほど太陽活動は活発であるといわれています。太陽表面の気体の層を彩層といい、コロナからでる巨大な炎をプロミネンスと呼びます。また、太陽表層面で起こる爆発現象をフレアといい、これに伴う太陽風が磁気あらしやオーロラを生み出します。

(平成28年度第一回試験問題より)
太陽光線を受ける地球の断面の面積は、πr2㎡と表すことができます。太陽定数は1.4kW/㎡ですから、
1.4(kW/㎡)×πr2(㎡)=1.4πr2(kW)
となります。よって答えは②となります。一見複雑そうですが、しくみさえ理解すればあとは簡単な計算問題ですから、落ち着いて取り組みましょう。
③太陽と月の動きと暦の関係
太陽や星の動きは、私たちの生活に密接にかかわっています。ここで押さえておきたいのが地球の自転や公転、星の日周運動、暦の種類などです。また、天動説、地動説についても説明できるようにしておきましょう。
天動説…プトレマイオスが唱えたもので、地球が宇宙の中心にあり、太陽や惑星が地球の周りをまわっているという考え。
地動説…コペルニクスが提唱したもので、太陽や恒星は停止しており、地球や惑星がその周りをまわっているという考え

(平成27年度第一回試験問題より)
北の空では、地球の自転によって恒星Aは北極星のまわりを反時計回りにまわっているように見えます。地球は24時間で360°自転していますから、360°÷24=15°で1時間あたりの回転角度は15°。二時間後ということは、15°×2=30°回転したことになりますから、答えは④であるとわかるでしょう。

(平成27年度第一回試験問題より)
この現象は、地球が太陽のまわりを公転していることによって起こる、見かけの動きです。同じ時刻に同じ恒星を見ると、1日に約1°、1か月では約30°東から西へ移動して見えます。よって答えは③となります。

(平成28年度第二回試験問題より)
地球の赤道を天球上に映した線を天の赤道と言います。地球の地軸は黄道面に対し約23.4°傾いて自転していますから、黄道も天の赤道に対し23.4°傾くことになります。よって正解は④となります。

(平成28年度第一回試験問題より)
太陽の動きにもとづいた暦をグレゴリオ暦といいます。グレゴリオ暦では、西暦が4の倍数の年をうるう年としていますが、4年に一度必ずうるう年が訪れるわけではありません。100で割り切れて400で割り切れない年はうるう年とされませんから、答えは③となります。

(平成28年度第二回試験問題より)
月の満ち欠けを基準とした暦は太陰暦です。ユリウス暦とグレゴリオ暦はどちらも太陽暦ですが、ユリウス暦はローマのカエサルが制定したもので、4年ごとにうるう年を設け、現在のグレゴリオ暦の基礎となりました。
(2)身近な自然景観と自然災害
①プレートと地学現象について
地球の表面は十数枚のプレートでおおわれており、それらがマントル対流により移動したり衝突したりすることによって、地震や火山活動が起こります。
日本は、太平洋プレート、フィリピン海プレート、北アメリカプレート、ユーラシアプレートなどの複数のプレートが接する境界に位置しています。プレートの位置関係についてしっかり押さえておきましょう。

(平成26年度第一回試験問題より)
日本の東側にあるAは太平洋プレート、南側にあるBはフィリピン海プレートです。よって、答えは②の組み合わせとなります。なお、日本の北側に位置するのが北アメリカプレート、西側がユーラシアプレートです。

(平成26年度第一回試験問題より)
一方のプレートがもう一方のプレートの下に沈み込んでいる地形を海溝といいます。なお、太平洋プレートが北アメリカプレートの下に沈み込んだ日本付近の海溝を日本海溝と呼びます。
・プレートと地震現象
プレートの動きが引き起こす地震現象について押さえましょう。

(平成26年度第一回試験問題より)
地震の揺れの大きさをあらわす震度は、「0・1・2・3・4・5弱・5強・6弱・6強・7」の10段階となっています。よって誤っているのは③となります。地震によって放出されるエネルギーの大きさはマグニチュードであらわされますが、震度と混同しないように注意しましょう。

(平成28年度第一回試験問題より)
日本付近では、太平洋側のプレートが陸側のプレートの下にもぐり込むようなかたちで地下に沈んでいます。地震はプレートの境界付近で発生しますから、答えは④となります。
・プレートと火山現象
プレートの動きが引き起こす火山現象について押さえましょう。

(図は平成28年度の問題文を加工したものです)
上図のように、マグマはプレートが沈み込んだ場所で発生しやすく、そこから上昇するため、火山は海溝よりも陸側に発生します。これらを踏まえ、実際の問題を解いてみましょう。

(平成26年度第一回試験問題より)
火山は海溝から少し離れた場所に発生しますから、②の「プレートの境界から離れた場所で、ほぼ平行に分布している」が正しいとわかります。

(平成28年度第一回試験問題より)
火山前線は海溝に対し並行で、かつ陸側に移動した位置にありますから、答えは④であるとわかりますね。
③日本と自然災害
大規模な地震や近年増えている大雨被害など、自然災害についての問題も多く出題されています。

(平成27年度第一回試験問題より)
冬季に豪雪となるのは日本海側で、乾いた晴天が続くのは太平洋側です。その原因は、シベリア大陸から吹く季節風。日本海を渡るときに大量の水蒸気を含んだ空気は、日本列島の中央を縦に走る山脈に沿って上昇し、日本海側に大量の雪を降らせます。雪を降らせて水蒸気を失った空気は山脈を越えて山を下り、乾燥した空気となって太平洋側へと流れます。よって、答えは③となります。

(平成27年度第一回試験問題より)
地震の揺れによって水を含んだ地盤が柔らかくなり、水が噴き出したりマンホールが突出したりする現象を液状化といいます。よって、答えは①となりますね。地割れとは、日照りや地震によって地面に割れ目ができること。土石流とは、山崩れなどの際に土砂と水が混ざり合って激しく流れる現象のこと。土砂崩れとは急傾斜地にある土砂が、地震や豪雨などによって崩れ落ちることを指します。

(平成27年度第一回試験問題より)
地震の前には、その前兆となる地殻変動が起こることがあります。ですから、定期的に地殻変動を観測することは、地震の予測につながる可能性があります。地盤などの調査から、将来強い揺れに見舞われる可能性を示した地図の事を地震動予測地図といいます。また、現在は、地震の発生直後に各地の揺れの到達時間などを知らせる緊急地震速報というシステムが利用されています。よって、答えは④の組み合わせとなります。
「科学と人間生活」を攻略する三つのポイント
【その一】苦手な分野より得意な分野を重点的に
40点を目指すなら、苦手分野を克服するよりは、得意分野を完璧にマスターすることをオススメします。各大問の配点は25点ずつですから、物理・化学・生物・地学のうち、得意な2分野に絞って重点的に勉強すれば合格点に到達できるはずです。
【その二】勉強する単元を絞り込もう
さて、4つの分野のうち2分野に絞り込んだところで、さらに勉強範囲を狭めましょう。「科学と人間生活」は、2つの大問から一つを選んで解答する選択方式です。たとえば物理なら「光の性質」と「熱の性質」のどちらか一方にのみ答えればいいわけですから、得意な方を重点的に勉強しておけば大丈夫。教科書の全範囲を網羅する必要はありません。
【その三】日頃からニュースや新聞をチェックしよう
「科学と人間生活」では、最新のテクノロジーや近年増加する自然災害についてなど、今の私たちの生活に密接にかかわる問題も多く出題されます。テレビやネットのニュース、新聞などに目を通すのも、「科学と人間生活」の勉強法のひとつです。
まとめ
物理・化学・生物・地学と、4分野からまんべんなく出題される「科学と人間生活」。出題範囲が広いイメージがありますが、実は逆。合格点の40点を目指すなら、その勉強範囲はぐっと狭まります。また、食べ物や衣服、暦のしくみなど、私たちの生活に関連した内容が多いので、「試験のための勉強!」と気負わずに興味を持って取り組むのも理解を深めることにつながりますよ。
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