ネットの見守りをより強化!いじめ匿名通報アプリ「Kids’ Sign」
助けを求める声をひとつでも多く拾いたい…!そんな思いから生まれたいじめ匿名通報アプリ「Kids’ Sign」。「スクールガーディアン」運営スタッフへのインタビュー第3回は、アディッシュ株式会社が提供する同アプリについて詳しくお聞きしました。
目次
アディッシュ株式会社 スクールガーディアン事業部 運用責任者/平田優さんインタビュー(3)
いじめ匿名通報アプリ「Kids’ Sign」とは?
「通信制高校ガイド」では、同社のスクールガーディアン事業部・運用責任者の平田優さんに行なったインタビューの模様を全3回に分けてお送りしています。
第1回は「スクールガーディアン」の活動理念や事業内容について、第2回は子どもたちを取り巻くネット・ソーシャルメディア環境、ネットトラブルの実例などについてお伝えしました。
第1回「ネットトラブルを早期発見!スクールガーディアンの活動とは?」
第2回「スクールガーディアンが目にしたネットトラブルの実例とは?」
そしてインタビュー最終回の第3回目となる今回は、2015年10月にリリースされたいじめ匿名通報アプリ「Kids’ Sign」についてお伝えしていきます。同アプリが誕生するに至った経緯、その特徴、このサービスに込められた思いなどを詳しくお聞きしました。
——いじめの匿名通報アプリ「Kids’ Sign」について詳しくお話をお伺いしたいと思います。こちらは2015年10月リリースということで比較的新しいサービスになりますが、どういったきっかけで生まれたのでしょうか?
平田さん:スクールガーディアンでは、「子どもが健全にソーシャルメディアを活用する世の中を実現する」ための取り組み理念として、
- 生徒、児童の書き込み見守る
- ネットいじめやネットトラブルを乗り越えるお手伝いをする
- 学校がソーシャルメディアを活用する世の中を作る
の3つを掲げています。
スクールガーディアンの運営を続けていく中で、ふたつ目の「ネットいじめやネットトラブルを乗り越えるお手伝いをする」というところに力を注ぐというのは、ネットパトロールだけでは限界があり、正直なところ難しいという意識がありました。そこで、子どもたち自身から声を上げてもらって、よりネットパトロールで発見できてない声を拾えればと思い、生まれたのが「Kids’ Sign」です。
——スクールガーディアンの立ち上げ当初から、ネットやSNSなど子どもたちを取り巻く環境も変わっていますよね。
平田さん:はい、そうですね。以前のようないわゆる学校裏サイトなどの掲示板に匿名で書き込むのではなく、現在は個人がアカウントを持って発信する時代に変わってきているんですね。掲示板のようなオープンな場ではなく、「LINE」などのクローズドな空間の中でのやり取りが増えてきています。そんな中、どのようにネットパトロールを続けていくのか?という点が課題となりました。クローズドな空間の中で助けを求める声をひとつでも多く拾いたい、声を上げてほしい、という思いから、このような通報サービスを作りました。
——では、この「Kids’ Sign」の特徴を具体的に教えていただけますか?
平田さん:まず子どもたち自身が、自分のスマートフォンやパソコンから通報したいことを発信することが出来ます。その通報された内容は、私共アディッシュを介して、先生方にご報告するというようなサービスになってます。
このサービスの特徴は、通報者が「匿名」であることです。
悩んでいたり、辛い状況を自分自身で発信出来るのは勿論ですが、いわゆる第三者、傍観者と言われる子どもたち。「心配な友達がいる」とか「最近学校に来ないな」などをはじめとした、トラブルになる前の小さな芽のところから摘みたい(学校で対応ができないか)というような思いで、このサービスを運営しています。
子どもたちは学校側が「Kids’ Sign」というサービスを導入したと告知されるので、その後配布されるQRコード・URLなどから、スマートフォンや学校・自宅のパソコンを使って、発信できるようになっているんです。
——特に工夫したり、気を遣われた点はありますか?
平田さん:やはり実際の画面上で気を遣ったのが入力項目です。「いじめ」という言葉を使ってしまうと、子どもたちにとって「これはいじめかどうか?」という判断がとても難しいので、入力項目を「最近心配な人」という文言にしてみました。「嫌なことをしていた人」はいわゆる加害者ですが、こちらは特に入力しなくても大丈夫です。あとは「状況」という欄は特に指定はしてないですが、発生した内容や目撃した日付や場所など子どもたちが自由に書ける欄となっています。とにかく一件でも多くの声を出しやすい仕様に、と非常に気を遣いました。
先生方からは写真を添付できるといった点が好評です。と言うのは、生徒さんたちの相談窓口というのは学校や教育委員会には昔から設けてありますが、そこには写真を添付できるという仕組みはなかったので、スマホの普及により、手軽に通報できるという点が良いのかもしれません。
——そうですね。相談窓口自体はあるけど、実際には行きにくい、活用しにくい、というのが現状だと思います。
平田さん:やはりLINEのスクリーンショットなどがすぐに送信できると便利です。
——なるほど。送信しやすい仕様になっているのはよくわかりましたが、逆にイタズラなどはないんでしょうか?
平田さん:サービス開始当初はもちろんイタズラの通報や「Kids’ Signに書き込むぞ」といったこのアプリが悪用されるケースも想定していました。ですが、先生ともすごくディスカッションをし、学校で生徒さんへ告知をする場面でご尽力いただけていることもあり、実際はこちらが思っていたよりイタズラというのはほとんどないんです。
「Kids’ Sign」、実際の通報内容や活用事例とは?
——リリースしてから約1年半、導入件数はいかがですか?
平田さん:試験的な導入も併せて約16校、その他に1自治体(23校)での試験導入中です。その中での通報件数は、だいだい1日1件程です。
——まだまだ手探りで思考錯誤な段階かもしれないんですけど、実際に通報される内容はどのようなものがありますか?
平田さん:「最近心配な人」という意味合いで、いわゆる第三者、傍観者の方からの通報が多いです。「最近、あの子の笑顔が減ってきたように思うので、何か動いてくれませんか?」というような内容だったりするんですけど、そういった場合に驚いたのは、通報者が匿名ではなく名乗ってくるケースもあるんです。
もちろん自分自身で通報してくるケースもあって、「○○先輩に、こういう性的な嫌がらせをされていて止めたくても、もう止められなくて辛いです。」といった内容です。こういったケースは、すでに名指しで通報されているので学校にお伝えし先生方にご対応いただく、というような流れになります。
——通報内容に対して直接相談などに乗ることはありますか?
平田さん:先ほどお話した通り、まずは生徒さんから声を上げてもらうということが目的なので、基本的に相談には乗らないです。もちろん学校にお届けして終わりではなく、私たちもそこがゴールではないとは思っているのですが、まず先生方が把握できてない子どもたちの声を拾うという、これまでスクールガーディアンではできなかったことに対し、動き始めることができている、そういった段階です。
——スクールガーディアンや「Kids’ Sign」を導入されてる学校で、不登校などに関するご相談はあったりしますか?
平田さん:中にはありますね。ちょっと不登校になっている子がネット上で投稿をしてないかというご相談はあります。
——不登校ですと本人との直接の接点がなくなってしまいますが、もしかしたらネット上で接点が持てるかもしれないですよね。
平田さん:そういった事例もありますね。過去の書き込みから、居場所を捜索できたケースもありますね。
以前、「家出で帰ってこない。インターネットで何か発信してるかも」ということでご相談いただいて、生徒さんを見つけられました。やっぱり発信していたんですね。まぁ、オープンの場でやっていたから分かったんですけれども……(笑)。
——それはやはり本当は見つけてほしいのかもしれませんよね。
平田さん:そうです。ご両親や学校の友達以外のところにその子の本音があるかもしれないという意味では、いち早くそういった書き込みなどを検知し、先生方に連携することで問題を解決するための材料として、お役立てできれば、そういった思いですね。
生徒たちの本音を引き出せる導入口に
——今のところはあくまで「Kids’ Sign」は「スクールガーディアン」のサブ的な位置づけという感じでしょうか。
平田さん:現状ではそうですね。学校で先生方が「相談してね」と呼びかけてもなかなか出てこなかった声を拾うツールとして、そういった窓口がひとつ追加されたイメージです。現代の学校ではスクールカウンセラーさんもいらっしゃいますし、活動されているとは思うんですが、そちらにはこない声が「Kids’ Sign」では上がってくる、という事例もございます。あとはクラスで行なういじめについてのアンケート代わりに使っていただくことも想定しています。
——なるほど。単なる通報だけでなく、いろいろな活用方法がありそうですね。
平田さん:いじめのアンケートに関しては、子どもたちのヒアリングで「匿名でも字で分かる」「集める順番で分かる」「書いているところを見られたくない」いう声があって。そういうリスクがなく、学校や家など場所を問わず、時間も気にせず通報できますし、夏休みなどの学校から長期に離れた時でも相談できるという点では、子どもたちにとって良いかも、という声を頂いてたりはしますね。
——これから深刻な通報がもっと増える可能性もありますよね。
平田さん:そうですね。スクールガーディアンや「Kids’ Sign」のサービスを提供してみてわかったのですが、思っていた以上に深刻なものが増えてきてます。
——年々増えている感じでしょうか?
平田さん:生徒さんからすれば小さな問題であっても学校や先生が動いてくれているな、と探っている段階かもしれません。今後は、今以上に、深刻な通報が増えるのではないかと考えています。
——確かに信頼関係ができてこないと本音は話せないですよね。そういった本音を引き出せる導入口にはなるんじゃないでしょうか。
平田さん:はい。「いじめ通報アプリ」ではなく「悩み相談アプリ」に独自で表現を変えて生徒さんに告知した学校があったんですよ。そうしましたら、他の学校と比べて通報件数が倍増したケースがありました。いろいろ工夫されて使われてる学校さんが多いんですが、助けを求める声を一つでも多く拾っていただいて、動いていけるよう活用していただきたいな、と思います。
——まだ始まったばかりのサービスですが、「Kids’ Sign」について今後の展望や目標などがありましたら教えていただけますか?
平田さん:ネットパトロールのサービスがここまで成長するまでにすごく時間が掛かりましたが、この「Kids’ Sign」も同様に、子どもたち自身が悩みを発信して解決に向けて一緒に動いていく環境が出来上がるまで時間は掛かるかと思います。ですが、、まずは学校様にご理解いただいて、環境を変えていくシステム、仕組みを作って行きたいですね。今はスマホで手軽に使える、という点がメリットととして大きいのですが、もっと工夫していけばさらに使っていただけるサービスに成長していくと思います。
——そうですね。子どもたちがもっと声を上げやすいよう、より使いやすく変化していきそうですね。
平田さん:個人的に思っているのは、先生に対しての内容だと言いにくい悩みもあると思うので、通報内容を伝えたい相手が選べるような。そういった工夫を重ねながら、子どもたちがいじめの問題から命をなくすような悲しいことにならないための一つの糸口になればいいな、と思ってますので、根気強く続けていきたいと考えています。
——ありがとうございました。